鏡面世界
2017.6.5
執筆者:岩泉町小本 千葉遥香
岩泉の一次産業と言えば、畜産や林業のイメージが強いですが、田畑を生業としている方々もたくさんいます。町の面積の9割以上が山地である岩泉は、平らな土地が広がる地域が限られています。町の東側に位置する小本地区では小本川の下流域という特性もあり、平らな土地が広がり、絵本に出てくるような田舎の田園風景を見ることができます。また、ゴールデンウイークが終わる頃には、水の張った田んぼが世界を反射した田鏡に出会うことが出来ます。
小本地区は、海の恵み、里の恵み、川の恵み、山の恵みといった自然からの恩恵により、四季を通じて食の宝庫でもあります。しかし、私たちに自然の恵みをもたらしてくれる田んぼや畑には平成28年の台風10号の後、長靴が埋まるほどの泥が堆積しました。春になって乾燥し、風の強い日には表面の泥が土煙となり、舞い散りました。
この地域では、昭和22年のカスリン台風やその翌年のアイオン台風の他にも、今から100年ほど前の1913年(大正2年)にも大きな洪水被害があったと聞きます。自然の恵みの享受を受けながら、時折訪れる危険とのはざまで生きてきた小本地区。リスク(危険)とベネフィット(恩恵)の中で生きてきたからこそ、五穀豊穰家内安全大漁を祈願して踊る七頭舞・七ツ舞が小本地区のそれぞれの部落で受け継がれてきたのだなと改めて感じます。
水路を含めた田畑の復旧には発災の翌々年の春まで日数が必要だと言われています。視界に広がる一面の農地が、またいつか大きな鏡となる日が来るのか、それともさらに違うものとなっていくのかはまだわかりません。でも、春が終わり初夏を感じる今日この頃、水路や田畑への影響が少なく復旧が間に合った一部の田んぼでは田植えが始まり、鏡面世界を感じることが出来ます。
この景色を見ていると、世代・性別の立場を超えて、100年後の岩泉の未来を想像し、人間の時間スケールだけでなく、過去の文献なども参考にしながら、多様な視点で意見を言い合える機会や場面が増えていってほしいと感じています。